そのやま農園の直営レストラン『森のかぞく』は、農園を始めた園山国光の書籍『森の家族 栗野岳物語』に由来しています。
1993年、運命に導かれるように出会った姶良郡湧水町。霧島錦江湾国立公園の栗野岳の中腹の原野が、今の湧水農場の始まりとなりました。
春を告げる野鳥のさえずり、涼やかな夏、美しい秋の紅葉、冬の凍てつく大地。書籍『森の家族』では美しい栗野岳で過ごした、園山家の楽しい日々がつづられています。
農園直営のレストランを開く際、真っ先に浮かん言葉が『森のかぞく』でした。豊かな自然の中で育つ野菜を身近に感じていただきながら、おいしい野菜をたっぷり味わっていただきたいと思っています。
『森のかぞく』のシンボルマークに使われている鹿は、栗野岳の牧草地で出会った子鹿です。
初めて見た野の鹿は、静かに草を食べては駆け出し、ピンと耳を立て地球の音を聞くように、ピタッと静かに止まる。そして、また静かに草を食べ、嬉しそうに駆け出し、土手の上へと浮かび上がり、杉林へと吸い込まれて行きました。
美しい俊足と闇夜でも全てが見える目、大地の風音に乗るものを全て吸い込む耳。その姿は書籍『森の家族』の表紙にも描かれています。
『農園食堂 森のかぞく』名山レトロフト店は子鹿ですが、姶良店では若々しく成長しています。
『森の家族 栗野岳物語』
園山国光著(南方新社/2001年出版)
鹿児島農場
1978年、鹿児島市の農場で有機農業を始めました。
作物が病気や害虫に強くなるためには健康な土作りが大切だと感じ、落ち葉や刈り草を原料にした草堆肥作りなどに取り組んできました。
そして、有機農業、無農薬野菜作りの技術の完成を確かめるために開いたのが、湧水農場です。
最初に出会ったその場所は原野でした。数千本の杉を切って焼き払い、杉の根っこを掘り上げ、大きな機械を使って凸凹だった大地を畑に開墾しました。
週末や休みの度に子どもたちと栗野岳へと通う日々。子どもたちと一緒に農場も少しずつ大きくなってきました。
夏でも涼しい地の利を生かし、湧水農場で最初に取り組んだのは無農薬のトマト作りでした。
梅雨の長雨や虫との戦い、高温で実が付かないなど、理想とするトマトができるまで、20年もの歳月がかかりました。
有機農法は長い時間がかかります。40年の歳月をかけ、ようやく私の土作りは完成したと思っています。
おいしい味の生きたトマトやキュウリなどの野菜を、みなさんが自由に作れる方法をお伝えできるまでになりました。
あとは子どもたちが上手に売ったり、加工したり、レストランでたくさんの人に食べてもらえれば、嬉しいですね。
私は「おいしい野菜がいい野菜」だと思っています。
自分たちが作った野菜を調理し、食べてくれる人がいること。特にレストランでお客さんの笑顔が見られることは、私たちだけでなく、有機野菜を作る人たちの自信になつながります。
「森のかぞく」はレストランの名前ですが、有機野菜の生産者と消費者をつなぐ場所の代名詞のようなものになればと思っています。
レストランそのものではなく、その思いを受け継ぐ場所が世界中に広がっていくことを願っています。
農業生産法人 そのやま農園株式会社 代表取締役
大学の卒業を控えていた就職活動中に、父から手紙をもらって鹿児島に帰ることを決意しました。
父の元で就農してから、有機農業の経営の大切さを強く感じました。
有機野菜を作りながら常に考えていたのは、おいしい野菜をたくさんの人に食べてもらうには、どうしたらいいかということでした。
質を高め、生産性を上げながら、お客さまに安定して供給していくこと。労働力の分散を避けるために、品種を絞りながら、可能な範囲で機械化も進めました。
野菜そのものだけでなく、新しい野菜の形として加工品作りにも取り組んでいます。
農園の主力品目のにんじんを使ったジュースやドライフードのほか、現在はにんじんとほうれん草のアイスクリームも手掛けています。
父の夢だった自社農園の野菜を使ったレストランの運営も、たくさんの人においしい野菜を食べてもらいたいということから始まりました。
姉と三男の弟が中心となり、2013年に『農園食堂 森のかぞく』名山レトロフト店をオープンしました。
健やかな野菜をもりもり食べていただき、無農薬の玄米で体をリセットしていただく。名山レトロフト店は父がよく話す“健康食堂” に育ってきました。
2019年はさらにその思いを一歩進め、姶良市に新店舗『農園レストラン 森のかぞく 姶良店』をオープンします。
お子さま連れのお母さんやご家族、いろいろな世代の方が、ゆったりとしたスペースの中で、料理をゆっくりと楽しんでいただくレストラン。使っている食材、料理についてお話ししながら、野菜の魅力をお伝えできたらと考えています。
ここには直接、有機農家の方が野菜を運んでくることもあります。野菜を作る人、調理する人、食べる人。野菜に関わる全ての人が森のかぞくの一員です。
農園レストランを通して、たくさんの仲間ができることを今から楽しみにしています。
生産部長・湧水農場
僕にとって有機農業は特別なものではなく、生まれたときからそこにあるものでした。
農薬や除草剤を使わないため、畑には虫がたくさんいたり、草が生えていました。
子どもだった僕たちは虫を観察して遊んだり、草取りの手伝いをしたり、もぎたての野菜をおやつ代わりにして育ちました。
有機農業が今のように知られていない時代、大変なことが多かったと思いますが、父はいつも楽しそうでした。
そのせいか、農業は楽しいものというイメージがあり、気づくとこの世界に進んでいました。
唯一、大変だと思うのは草との戦い。少しでも草取りが楽になればと、大学時代は小型で使いやすく、値段的にもリーズナブルな除草機械の開発に夢中になりました。大学の卒業論文は除草作業についてのものでした。
最近、有機栽培は理論的に考えられるようになりました。でも、昔も今も根本的な部分は変わっていないように思います。
健康な土作りをしっかり行った上で、父の代から取り組んでいる「有機」「露地」「食物性堆肥」を引き継ぎながら、さらにもう一歩進めていければと思います。
友人から「有機野菜ってどこで買えるの?」と聞かれることがあります。どんな場所でも手軽に手に入る有機野菜。質はもちろん、生産量も増やしていきたいと思っています。
幼い頃から、おいしくて健やかな野菜を食べて育ってきました。
目で見て、手で触れて、鼻で匂いを感じ、舌で味わう。未来を担う子どもたちも含めて、そんな経験をもっとたくさんの人にしてもらえたらと思っています。
有機野菜が特別なものではなく、当たり前になる時代を目指して、仲間たちと一緒においしい野菜を作り続けます。
森のかぞく 店舗部長
幼い頃から料理を作るのが好きでした。
料理と呼べるかどうか分かりませんが、畑で焚き火の上に鍋を置いて、くず野菜を煮て遊んでいました。今、考えると、ベジブロスのようなものですね。
よく作っていたのは、自家製のトマトピューレに塩とにんにくを入れたパスタ。野菜だけのシンプルな料理ですが、すごくおいしかったのを今でも覚えています。
『森のかぞく』を始めるまで、有機野菜はあまりにも身近過ぎて、特別だと思ったことはありませんでした。
オープン以来それぞれの季節を重ねるごとに、有機野菜の新たなおもしろさを肌で感じています。
季節に取れる野菜は決まっているため、毎日、同じ野菜が続くことがあります。同じ野菜でも味は少しずつ違うので、昨日よりももっとおいしく食べられるような料理を心がけています。
野菜はメイン料理の飾りのイメージをお持ちの方もいますが、主役になれる素材です。
見た目のきれいさはもちろん、野菜の本当のおいしさを。「こう切った方がSNS映えするかもしれない」と思いつつ、野菜のおいしさを保つために切るのをぐっと我慢しています。
見た目はちょっと不恰好に見えるかもしれませんが、それで良いのかなと思っています。
幼い頃から、両親が一生懸命に野菜を作っている姿を見てきました。
毎日、届く野菜を手に取りながら、両親をはじめ、野菜と向き合って育てている生産者の皆さんに感謝しています。
野菜の本当のおいしさを分かってもらうこと。それが今の僕の仕事だと思っています。