農業の20年後を考える

執筆/園山宗光

 彼岸が過ぎた頃から朝夕が涼しくなりましたね。先日の中秋の名月も好天に恵まれたので、満月を見ながら秋の夕べを愉しんだ方も多かったのではないでしょうか。

 この夏は梅雨の長雨で野菜に大きな影響が出ていたところに、96日の台風10号の鹿児島直撃が加わりました。それから約1ヶ月が経ちました。9月はもともと夏野菜の終わる時期と冬野菜の種まき時期が重なり「端境期」と言われますが、これほどに野菜が無いというのはこれまで経験がありません。

 台風10号は「中心気圧915hPaで直撃」と言われていましたが、最接近時には945hPaぐらいまでに落ちていたと思います。それでも備えを十分にしていた農作物にまで大きな被害が出て、九州の広い範囲で大規模な停電も起こりました。これから先は米国のハリケーンクラスの台風が来るということも十分に考えられると思います。そうなると農産物どころか建物などへの被害も甚大になるでしょうし、「台風による大規模災害」を想定しなくてはならなくなります。この間もスーパーや物産館には県外産の農産物がたくさん入ってきていましたが、日本中で様々な災害が頻発する昨今、それも叶わないことがあるかもしれません。

 何を言いたいかと言えば、より一層の環境リスクが高まる農業において、これを農業の抱える課題とだけ捉えずに、国民全体の食糧問題という意識をもっと持つべきだと思います。国内の農業人口が今後急速に減っていく見通しがはっきりしている中、自給率に改善の兆しは見えず、人口が増えていく諸外国がこれまで通り日本に輸出をしてくれるのか? これは難しいと思います。

 コロナ禍で農業にも給付金が出ていますが、コロナでなくても農業は常に天候不順や災害による不作と隣り合わせです。これを農家自身の努力でクリアしていくというのにはそろそろ限界が来ているように感じています。国民のライフラインである食糧供給はもちろん、環境の保全や地域・集落の維持など、農業の持つ多面的な機能をもっと重視し、これからの人口減少社会、災害の頻発する日本に合わせた新しい農業のあり方を考える必要があります。

 これまで田舎暮らしの代名詞として、それも家族単位で使われていた「自給自足」という言葉がよりリアルな形で、もっと大きな単位での言葉として浸透していくのではないでしょうか。国、県、市町村の単位で食糧自給率の底上げを図るために、未経験であろうと農業に興味を持つ人たちの窓口、受け入れ先の拡充に力を入れて、「非農家」からの転身も力強くサポートしていくことが急がれます。20年後にどんな国の形になっていて、農業という産業はどんな役割を担っているのか。今考えていることがその頃に実現するぐらいの時間軸で考えていかなければならないと思います。

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