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名山レトロフト店閉店にあたって

201373日に名山にオープンした森のかぞくでしたが、10周年を前にした2023623日に閉店となりました。10年間のご厚意に感謝申し上げます。

そのやま農園が自社の有機野菜を使ったレストランをはじめたきっかけは、会長である父の想いがありました。それまで30年以上にわたり有機農業をしてきた父にとって、収穫した野菜のうち2割とも3割とも言われる「規格外品」をどう処理するか(販売するか)は大きなテーマでした。

私が大学で就職活動をしている最中に父から受け取った手紙には「土づくりは完成した。あとは野菜を加工して上手に販売したり、レストランをすれば展開できる」というようなことが書かれていました。後にレストランの立ち上げをすることになった姉もそんな内容の手紙を受け取っていたらしく、先々はどこかでレストランをすることになるであろうことはなんとなく認識の共有がされていたのでした。

手紙を受け取ったことで「父がやってきた農業を販売面や経営面で継いでいきたい」と思った私は2005年に実家を継ぎ、翌年には弟の秀国(現生産部長)も就農し、生産基盤を作ってきました。

それから時が流れ、温められていたレストラン構想が一気に動いたのが2013年でした。前述の姉と、三男である作太郎(現店舗部長)が前職の飲食店を辞めるタイミングが重なりました。運よく鹿児島市役所前の「レトロフトビル」のオーナーである永井さんご夫婦とも出会い、電車通りに面した一等地の部屋で森のかぞくをオープンすることができました。

飲食店経営の経験はもちろんなく、姉や三男も店舗運営の経験はしてきたものの試行錯誤しながらで、料理もほとんど自己流でやってきました。この10年間は色々とあってとても語り切れませんが、ひとつ言えることは兄弟たちが最初の23年を激務に耐えてよく踏ん張り通してくれたことが、10年続けられた要因だということです。歴代のスタッフたちもそれを引き継ぎ、野菜の洗いや皮むきから、まさに父が言っていた規格外野菜を上手に使いこなすことを徹底してくれました。その手づくり感や森のかぞくらしい味に共感して下さった方々が連日ご来店いただき、これまでお店を維持することができました。

レストラン閉店の転機となったのはコロナ時代に入ったことではあったかもしれませんが、飲食店としての様々な課題が浮き彫りになったということを思うと、むしろ前向きな選択になったと考えています。というのも、コロナ禍をきっかけに事業拡大した弁当・惣菜の加工事業は、商品を欲しい方のところにこちらから持っていくことができます。そして、材料さえあれば手を動かして作り続けることができ、生産性が高いということです。

飲食店のすべてが生産性が低いとは言いませんが、とびっきりのメニューを作り、どんな状況下でも来店し続けていただかないと材料や人員でロスが出る業種なので、よほどのプロ経営者でないと生き残れないのではないか、と思いました。そう考えた時に、有機農業を軸にした持続可能な経営をする上で、私には飲食店経営者としての力が足りないと考えました。それよりも農業を父から引き継いだ次男の強みである美味しい野菜づくり、レストランで培った三男の弁当・惣菜の開発を進め、ものづくりでのプロ集団を目指したいと考えています。それによって私もこれまでの人脈を生かして営業や販売で貢献できると思います。

父が描いてきた農園レストランのイメージからすると少し離れてしまったかもしれませんが、このほうがかえって大量の野菜を消費することにつながるので面白いかもしれません。私たちが目指すべき有機農業の将来像からは全く外れることはなく、多くの方々の身近なところに野菜やお弁当があるという状態を実現するため、これからも作り手の腕を磨いて、商品作りに邁進していきます。森のかぞく10年という節目をもって、次のステージに進むべくスタッフ一同頑張りますので、引き続き宜しくお願い申し上げます。

農業生産法人そのやま農園株式会社
代表取締役 園山 宗光

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